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山口地方裁判所 昭和28年(行)7号 判決 1956年4月12日

原告 土肥義雄 外六十九名

被告 下関税務署長・宇部税務署長・山口税務署長・防府税務署長・岩国税務署長

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、原告等訴訟代理人は「被告下関税務署長が別表(一)記載1乃至48の原告等に対し、被告宇部税務署長が同49・50・51の原告等に対し、被告山口税務署長が同52乃至57の原告等に対し、被告防府税務署長が同58乃至69の原告等に対し、被告岩国税務署長が同70の原告に対し、それぞれ別表(二)処分通知日欄記載の日になした昭和二十七年度所得税の更正又は決定(その区別は同表処分の区別欄に、その税額は同表所得税額欄に各記載の通り)はいずれも無効であることを確認する」との判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。

『一、被告等各税務署長は、それぞれ請求の趣旨記載の原告等に対し、いずれも昭和二十七年度における営業所得があるとして、別表(二)処分(区別及び所得税額)欄記載の通り同年度の所得税額を更正又は決定し、その旨を同表処分通知日欄記載の日に通知書をもつて各原告に通知した。

二、しかしながら原告等は別表(二)組合加入日欄記載の日にそれぞれ訴外共栄企業組合(以下訴外組合又は組合という)に加入し、その組合員たる従業員となつたもので、以後全然個人営業をしていない。即ち、訴外組合は食糧品販売その他各種の事業を営むことを目的とし、中小企業等協同組合法に基いて設立された企業組合(法人)であつて、その主たる事務所を福岡市に、従たる事務所を福岡市、熊本市、延岡市、別府市、佐賀県鳥栖町、下関市及び東京都に置き、各所に事業所を有して右事業を営むものであつて、右組合は従来個人営業していた者をその営業を廃止させて組合員として加入せしめ、加入者が加入当時有していた商品原材料業務用什器等を買取り、加入者の店舖を組合の事業所として設置し、加入者をその事業所の責任者として右商品その他の資産をもつて組合の事業に従事せしめるという形態で運営されて来たものである。原告等はいづれも従前営んでいた個人営業を廃止し、営業用全資産を訴外組合に譲渡してこれに加入し、従前の店舖には組合の事業所であることを表示した上、それぞれ各事業所の担当責任者として組合事業に従事し、爾来原告等は組合から給与を受ける従業員となつたもので、被告等も原告等を組合の従業員として取扱い、原告等の給与について源泉徴収所得税を徴収して来たのである。

三、右の通り原告等は法人たる訴外組合の従業員であり、個人営業を営むものではないから、組合加入後は事業所得税の課税対象たる原因事実の存しないこと明白である。しかるに被告等は原告等に組合加入後も個人営業による所得があるとして本件処分をなしたものであつて、該処分はいずれも無効である。

尚原告等のうちには前記組合加入日欄記載のように昭和二十七年の中途から組合に加入した者もあるが、これ等原告に対する該年度所得税額の更正又は決定はいづれも一個且つ不可分のものとしてなされており、組合加入前の営業所得に対応する税額のみを特定することはできないから、右処分はいずれも全体として無効というべきである。

よつて本訴において本件各処分の無効確認を求める。』

そして被告等の主張に対して次の通り述べた。

『一について。原告等は単に所得の有無や多寡に関する被告等の認定の瑕疵を理由に本件処分の無効を主張しているのではない。原告等が法人の従業員であることを無視し個人営業者であると盲断して所得税を課することが根本的且つ明白に誤りであることを主張するのである。そもそも本件処分当時の所得税法においては現行法第三条の二のような実質課税の原則は法定されていないのであるから、税務当局は形式上の所得名義人に課税すべきであつて所得の実質上の帰属者を審査してこれに課税する権限を有していないのである。特に法人格の存在を認めながらその事業活動を否認し法人税法の適用を除外し個人に対して所得税を課するが如きは法人税法と所得税法との統一的解釈を紊るものであつて許さるべきことではない。現に形式は会社であるが実質において個人経営の事業が無数に存在するけれども、従来かゝる事業による所得について個人に所得税を課してはいない。従つて形式上法人が存在する以上その事業による所得については法人税を課すべきであつて、区々たる憶断に基いて従業員に所得税を課することはできない。しかして訴外組合は法律上の法人であり、原告等はその従業員として組合の事業所で就業し組合から給与を受けているのであるから、原告等が個人営業をしていないことは一目瞭然であるのに、被告等は原告等が個人営業者であると盲断して本件処分をなしたのであつて、該処分は外観上明白な瑕疵あるものとして当然無効というべきであり、単に取消し得るに止まるものではない。

二について。被告等は訴外組合は組合員が所得税を免れるための仮装の手段であるというがそうではない。組合は実質上も自ら事業を営んでいるのである。

(1)について。(イ)組合幹部に対する組合員の信頼は絶対的であり、幹部は献身的に全組合員の利益のために努力している。(ロ)組合の法人税申告が毎年欠損としてなされていることは被告等主張の通りであるが、この欠損は組合従業員の退職給与引当金を赤字に見積つていたために莫大な額となつたもので、これを差引けばさしたる欠損とはならない。不況と重税にあえぐ中小企業者が特別の利益はない代り苦難の場合に他の力を借りられることを期待して相互扶取の組織を作りこれに加入することはなんら不思議なことではない。

(2)について。(イ)被告等の挙げる加入時の諸手続は行われている。棚卸、資産評価は厳重に実施されており、債権譲渡や債務引受も対外的には充分な手続を践んでいないが対内的には立派に行なわれている。酒煙草販売等の免許事業は名義変更が困難なため個人名義のまゝで組合が抱えているが、許可営業で名義変更の可能なものは変更している。しかして免許可名義が個人のまゝで組合に加入しているからといつて直ちに組合の事業でなく個人事業であると断ずることはできないし、その他の組合加入時の手続が正確完全でない場合とて同様である。けだし免許可名義を個人のまゝで又は資産の評価について全くの目の子算用で組合に事業を投ずることもあり得るのであつて、中小企業者においてはこの方がむしろ通常だからである。(ロ)被告等主張の組合事業の運営に関する諸事項は完全に又は不完全ながらも実施されている。被告等は組合の諸経費は各組合員から徴収しているというが、これは組合員から徴収しているのではなく各事業所々在の組合財産を引揚げているのであつて、このことは組合財産の内部的処理にすぎずなんら異とするに足らない。尚数多くの取引中にたまたま個人名義でなされたものが混在していたとしても、それは従前からの商慣習によるやむを得ないものである。』

第二、被告等指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁及び主張として次の通り述べた。

『原告等の請求原因事実中、一の事実は認める。二のうち訴外組合が中小企業等協同組合法に基いて設立された法人で、主たる事務所及び従たる事務所を原告等主張の地に置き各所に事業所を有していること、原告等がその主張の日に右組合に加入したこと、その加入前にはそれぞれ自己の事業を営んでいたこと、原告等所属の右組合山口県支部から組合従業員に対する給与の源泉徴収所得税の納付があつた(但し昭和二十八年五月分まで)ことは認めるが、右源泉徴収所得税額中に原告等に対する分が含まれていたとのことは不知、その余は否認する。三のうち被告等が原告等には組合加入後も個人営業による所得があるとして本件処分をなしたものであることは認めるが、その余はすべて争う。

一、被告等は後記の通り原告等において組合加入後も実質上個人事業を営みこれによる所得を得ていることを主張するものであるが、仮に原告等主張通りの事実関係であるとしてもそれだけでは本件処分が無効であるとはいえない。一体行政処分は、それが事実上又は法律上不能の事項を目的としてなされたような特別の場合のほかは、その処分に重大且つ外観上明白な瑕疵がある場合に限つて無効となるにすぎないのであるが、原告等の主張は要するに組合に加入した後は事業所得を生ずべき事業を営んでいなかつたにも拘らず被告等において原告等が組合加入後も個人事業を継続しその所得を得ていると誤認したというもので、これは所得の帰属についての認定を誤つて課税処分をしたというに帰するのであるから、本件各処分の瑕疵は少くとも外観上明白なものであるとはいゝ得ない。即ち課税処分は企業組合等という形式的外観(法人形態)等に拘束されることなく、実質上の所得の帰属者に対してこれをなすべきものであり、所得の有無乃至帰属――これを本件についていえば訴外組合の計算に帰属せしめられている取引から生ずる所得が組合に帰属するものであるか、あるいは組合員に帰属するものであるか――についての認定は実体的な法律関係を綜合し経済的な実質を考慮した上、法律的な価値判断を経て初めてなし得る事柄であつて、単なる形式や外観によつて認定し得るものではない。企業組合も法人である以上自ら事業を営むのが本来あるべき姿ではあろうが、組合に加入することによつて当然に加入者の事業が組合の事業になるものでもなければ、組合員となつた者が自ら独立して営業できなくなるわけのものでもない。従つて原告等が訴外組合に加入したからといつて直ちに原告等に事業所得がないことに確定する筈のものではなく、これについては加入時に組合に対して営業の譲渡がなされたかどうか、その譲渡後でも独立して営業していないかどうかが判明しなければ決定し得ないのである。であるから原告等に事業所得があるか否かの認定も右のような判断を経て初めてなし得るものであつて、仮にこの所得の有無乃至帰属についての判断を誤つて課税をしても、その誤りは外観上明白であるとはいえず、このため課税処分が当然無効となるわけはない。よつて仮に原告等主張通りの事実関係であつても、本件各処分の無効確認を求める本訴請求はその主張自体理由がないというべきである。

二、被告等が本件処分をなした根拠は次の通りであつて該処分に無効原因となるような瑕疵は存しない。

(1)訴外組合の特異性。

(イ)一般に企業組合に対して営業を譲渡し、一従業員となつて組合の事業に従事することは個人営業に比し多くの利益をもたらす反面危険をも伴うものであるから、現実に企業組合が成立するためには組合員相互の間に自己の事業の運命を委ねるに足る強い人的信頼の存在を必要とする。ところが訴外組合は定款に例示してあるだけでも三十有種の事業を営むことになつており、事業所は一都六県の広範囲に分散していて、その組合員数は昭和二十七年十月には約三千名の多数に達している。かゝる状況の下に自己の事業の運命を託すに足る程の強い人的信頼が存するものとは考えられない。

(ロ)訴外組合からの法人税の申告では組合の決算は創立(昭和二十四年十二月九日)以来毎期莫大な欠損が続いている。かゝる組合に事業を投ずることはきわめて危険であつて常識ある者のなし得るところではない。しかるに右組合の組合員は創立当初僅か十四名にすぎなかつたものが右欠損継続中に新加入が行われ、昭和二十六年三月末には約三百名、同二十七年三月末には約千四百名、同年十月には約三千名に急増している。かゝる事象は組合員が事業を組合に譲渡したというのは表面上の形式にすぎないと考えなければ到底これを理解することができない。

(2)訴外組合における事業経営の実体。

(イ)訴外組合が実質的に自ら事業を行うのであれば、新規組合員を加入させる際には、商品等の棚卸資産が組合に譲渡されてその評価が組合と加入者との間で正確に行われること、営業に関する債権の譲渡債務の引受の手続がなされること及び免許可を要する事業についてはその営業名義が組合の名義に変更されることが必要である。しかるに被告等が調査したところでは右のことが行われていない事例が相当数に上つている。

(ロ)訴外組合が自ら事業を営んでいるといゝ得るためには、各事業所の一切の取引はすべて組合の名で行われていること、組合の経費は組合自体の事業により生ずる収入でまかなわれていること、組合の資産は組合において随時適所に運用していること、収益の処分は組合において一個の企業体としてこれを行つていること、組合は常に事業所の運営に対する監督指導をなしていること、組合員に支給する給与の額は組合員間の均衡その他の事情を勘案し給与審議会等による慎重な審議の上決定されていることが必要である。しかるに被告等が調査したところでは右諸事項が適正に実施されておらず、組合員は組合加入後も加入前の事業を加入前と同様の経営内容によつて引続き経営しているし、組合の事務所の維持運営上必要な諸経費は運営費等の名目で各組合員から徴収されているのである。

叙上のような訴外組合の特異性や事業経営の実体からみて、右組合が自ら事業を営むものであるとは到底考えられず、右の組合というのは組合員が所得税を免れるための仮装の手段にすぎないものであつて、事業を営むものは組合員各個人であり、事業から生ずる所得は組合員個人に帰属しているといわざるを得ない。そこで被告等は右組合の組合員である原告等は組合加入後も個人営業による所得を得ているものと認定し本件処分をなしたのである。

三、尚被告等は昭和二十七年度中途に組合に加入した原告等に対する課税処分も当然無効であるとの原告等の主張が失当であることを予備的に主張する。即ち、年間所得が不可分であることは被告等も争わないけれども、昭和二十七年度の中途に組合に加入した原告等に対する課税処分中には原告等も自認するように加入前の個人所得に対する分が含まれているのであつて、加入後も個人所得があると認定したことが仮りに誤りであり且つそれが課税処分の無効原因になるとしても、右は単に本件処分の一部無効の原因たるに止まり処分全体を無効ならしめるものではない。』

第三、(証拠省略)

理由

被告下関税務署長が別表(一)記載1乃至48の原告等に対し、被告宇部税務署長が同49・50・51の原告等に対し、被告山口税務署長が同52乃至57の原告等に対し、被告防府税務署長が同58乃至69の原告等に対し、被告岩国税務署長が同70の原告に対し、その各昭和二十七年度所得税額を別表(二)所得税額欄記載の通り更正又は決定(その区別は同表区別欄記載の通り)し、その旨を同表処分通知日欄記載の日に通知書をもつて各原告に通知したこと、訴外組合が中小企業等協同組合法に基いて設立された法人であつて、その主たる事務所を福岡市に、従たる事務所を福岡市、熊本市、延岡市、別府市、佐賀県鳥栖町、下関市及び東京都に置き、各所に事業所を有していること、原告等は別表(二)組合加入日欄記載の日に右組合に加入したもので、加入前にはそれぞれ個人営業をしていたものであること、被告等は原告等が右組合に加入した後も個人営業による所得を得ているとして本件更正又は決定をしたものであることは当事者間に争がない。

被告等は仮りに原告等がその主張のように個人営業をしておらずこれによる所得がないとしても、その主張は要するに所得の帰属についての認定を誤つて本件処分をなしたというに帰着するもので、右処分の瑕疵は外観上明白なものではないから無効原因ではなく、従つて右処分の無効確認を求める本訴請求はその主張自体理由がないと主張し、これに関連して被告等は本件処分はいわゆる実質課税の原則によつてなさるべきであると主張するに対し、原告等はこれを争い本件処分当時はいわゆる名義課税の原則によるべきであると主張するので、先ず本件処分当時における所得税の賦課につき実質課税の原則によることの適否について考える。

一般に租税を賦課し得るためには課税の物的基礎となる課税物件が特定の納税義務者に帰属する関係にあることを要するのは言をまたないが、現行所得税法第三条の二や法人税法第七条の三のような規定の存しなかつた本件処分当時において、一の事業から生ずる一定の所得の帰属関係について名義と実質とが一致しない場合、即ち名義上の所得者が実質上の所得者でない場合にそのいずれに租税を賦課すべきかについて一応疑問が生ずるわけであるが、租税法においては経済的負担能力に応じた租税の賦課即ち租税負担の公平ということが基本理念とせられていることは多言を要しないところであり、この負担の公平を理念として租税を賦課する以上は、所得の帰属関係をその名義の如何に拘らず実質によつてこれを定め実質上の所得者に対して課税するといういわゆる実質課税の原則にのつとるべきであること当然といわねばならない。租税法自体についてみても帰属関係が明瞭でない場合に帰属に関する規定を設け、これを例えば、信託財産から生ずる利益については受託者は法律上の権利者ではあるがその利益を享受する者ではないので所得税法第四条を設けて実質的にその利益を享受する受益者がその財産を有するものとみなしこの者を所得税法上の所得者として課税すべきことを定め、公社債の利子所得、無記名株式の配当所得等については元来その支払を受ける者に課税すべきものであるが、右元本所有者例えば公社債の所有者が利払期前にその利札を売却するようなときはその者は経過利子に相当する金員を取得するに拘らず表面上は利子の支払を受けたこととはならないので特に所得税法第十一条の規定を設けて元本所有者でない者が利子配当等の支払を受けたときはその所得の計算上元本所有者がその支払を受けたものとみなしてこれに課税すべきことを定めているのは、実質課税の原則を各具体的場合に則して規定していたものと解せられるのである。従つて昭和二十八年法律第百七十三号所得税法の一部を改正する法律によつて設けられた同法第三条の二の規定や同年法律第百七十四号法人税法の一部を改正する法律によつて設けられた同法第七条の三の規定はいずれも右法律が公布される以前においても実質課税の原則にのつとり租税を賦課すべきであつたことを確認する趣旨のものであると解せられ、右規定が新設されたことを理由にそれ以前においては実質課税が許されなかつたということはできないのである。

原告等は法人格の存在を認めながらその事業活動を否認して法人税法の適用を除外し個人に所得税を課することは法人税法と所得税法との統一的解釈を紊るものであるといゝこれを理由に本件処分については名義課税の原則によるべきことを主張するが、右所論は採用することができない。けだし本来法律上の法人格の存在と所得の帰属との間に理論上必然の関連があるとは考えられず、これを例えば企業組合の法律上の存在が認められるからといつて組合名義で行われている事業から生ずる所得がすべて組合の所得であり組合員の所得は必然的に中小企業等協同組合法第八十一条所定の所得のみであるとは即断し得ないところであつて、事業から生ずる所得が組合の関係かそれとも組合員の所得であるかはその所得自体の実質上の帰属関係を検討してこれを決すべきであり、組合が自ら事業を営みこれによる所得が実質上も組合に帰属しているのであればもとより組合に法人税を賦課すべきであるが、もし組合が仮装のものにすぎず実際は組合員個人が事業を営みその所得の全部又は一部が実質上組合員に帰属しているのであれば、この所得については組合に法人税を賦課することなくその組合員に所得税を賦課すべきであることも亦当然といわねばならないからである。

更に原告等は形式は会社であるがその実質は個人経営である事業は無数に存在するけれども従来かゝる事業による所得について個人に所得税を賦課していないともいうが、仮に右のような事例があつたとしてもそれはたまたま税務行政の実際面において所得の帰属についての調査不充分等のため適正な課税が行われていなかつたことがあるというにすぎず、このような事例があるからといつて前示判断を左右することはできない。

叙上の通りであるから本件処分当時においても税務行政庁は実質課税の原則にのつとり所得の実質上の帰属関係に基き更正又は決定をなし得たものであるということができる。

そこで進んで本件各処分が無効であるかどうかについて考えるに、元来特定の行政処分が取消をまつまでもなく当然無効とせられるためにはその処分に内在する瑕疵が重要な法規違反であつて且つその存在が外観上明白であることを要すると解すべきであつて、その瑕疵の存在が外観上明白でない場合にはその行政処分は単に取消し得るに止まるというべきである。原告等は訴外組合が法人であつて原告等が右組合に加入し組合の事業所で就業して組合から給与を受けていることを理由に個人営業をしていないこと従つて事業所得税の課税対象のないことが明白であり本件各処分には外観上明白な瑕疵があるというのであるが、原告等の場合に果して事業所得税の課税対象が存在しないものであるかどうか、換言すれば訴外組合が自ら事業を営み原告等の担当する事業所から生ずる所得が真実組合に帰属しているものであるか、それとも右組合は仮装の存在にすぎず実際は原告等が事業を営み事業所から生ずる所得は実質において原告等個人に帰属しているものであるかは、単に組合が法律上の法人であるとか、事業所に組合の表示があるとか、原告等が事業所で就業して組合から給与を受けている形式が備つているとかいう外観や形式のみによつて決定し得るものではなく、右組合設立の経緯、組合における営業資産の管理、事業運営の方法及び損益の処理方法等の実態について調査をなしこれに法律的経済的な検討を加えて初めて決定し得るものというべきである。そうだとすると形式上組合員である原告等が実質上事業所得を得ているかどうかは税務行政庁の認定をまたねばならぬ関係にあるというべきであつて外観上明白に判定し得るものとはいえないから、仮に被告等税務署長において訴外組合は仮装法人であると判断し原告等は組合に加入した後も事業所得を得ていると認定したことが誤りであり、このため本件更正又は決定が違法であるとしても、右処分には外観上明白な瑕疵が存するものとはいうを得ずその瑕疵は該処分の無効原因ではなく取消原因となるにすぎないものといわねばならない。

以上の通りであるから原告等主張の事実関係であつてみれば被告等のなした本件各処分に仮に瑕疵があるとしてもそれはたゞ取消の原因になるというに止まり、その取消のない限り有効であるというの外はない。

してみれば本件更正又は決定の無効を主張しその確認を求める原告等の本訴請求はいづれもそれ自体失当たるを免れないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 河辺義一 藤田哲夫 野間礼二)

(別表省略)

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